悟りの境地とは何かと訊かれたとき 「知恵者」 でおなじみの文殊は
「文字をもっては言い尽くせないものだ」 と答えた
同じ質問に対し 維摩という架空の聖者は 「・・・」 と沈黙で答えた
これが 「維摩経」 の中にある 「維摩の一黙」 だ
文殊の答え自体が文字であり 内容と矛盾している点に注目して欲しい
多弁の才子には 所詮 真実が見えないという皮肉であろうか
われわれの日常も 活字や音声による情報があふれ
それらを通して真実を見る眼が養われそうなものだが
千言を費やしても 一黙の観察に及ばないことが この世はじつに多い