「熊野(ゆや)」と「松風」は 能のうちでも地味な味わいを持つもので
見つけない人には正直いって面白くない
ところが 金春禅竹(世阿弥の女婿)は
「此二の体ぞ能の本意無常なるべき」と
その一見平凡さを絶賛している
『碧巌録(へきがんろく)』に出てくる一円相ということばも
平凡の非凡を言わんとしている
禅僧が色紙に筆で一つの丸を描く
これが一円相で 円とは完全無欠を意味している
たかが丸一つにすぎないと思って真似して描いてみても なかなかむずかしい
加えて じっと丸を見つめると 心象の中で円はさまざまに変化し 見飽きることがない