ある日 ひとりの鋳物師が盤珪(ばんけい)禅師のところにやってきて問答した
「自分は鋳物師だが 釜をつくるとどうしても10個に8個は
穴のあいたものができてしまう これを売るのは悪いことか」
「鋳物師はたくさんいるが 穴のあいた釜を売っているのはお前だけか」
「いや みんな売っている」「それでは お前はその釜を無傷だといって
夜中に売っているのか」「いや 昼日なかに売っている」
そこで盤珪禅師は答えた
「では いいではないか 買うほうも目があって買っているのだ
傷物を無傷といって 夜売ったら悪いだろうが
昼に売って 先方もよく見て買っているのだから そう気にすることはない」
「疵物(きずもの)としらば買うまじき也」というわけだが
禅師はきず物商売をすすめているのだはない
世の中には きず物を無傷と偽って売る悪徳商人があとを絶たない
そんな商人がはびこるのは 値段が安いからだとか
有名ブランドだからといって きず物でも買う人がいるからにほかならない
にせ物時代といわれる昨今 そんなきず物をつかまされないようによくよく注意したい
買うほうにスキがあれば きず物はいつまでたっても大手を振って歩き続ける